『龍時』

最近慣れない大学生活のせいもあってか、シエスタが多い。シエスタをする事で後半の授業に元気よく行く。そんなサイクルが出来つつある。シエスタって何さ?フツーに書いてるけど、つい最近までは知らなかった言葉。シエスタ、簡単に言えば昼寝。スペインでは昼食後、又は夕方前に昼寝をする習慣があるそうだ。それを知ったのはある一冊の本に出会った事がきっかけであった。野沢尚さんの『龍時』を読んだからだ。数少ないサッカー小説であり、独特なサッカーの描写は見事である。殊に、サッカーをやった事がある人なら誰もが「あ〜、あるある!そ〜いうの!」と共感してしまう表現には圧巻させられる。また、スペインと日本との技術、精神的な面、サッカーに対する文化の違いにも、小説を通して深く触れられている。なぜ日本のサッカー業界が盛り上がりを見せていても、ヨーロッパの人々が日本のサッカーの馬鹿にしているのかが分かる気がしてしまう。プレイヤー、サポーターに関わらず、サッカーファンなら必読!っといったところだろう。シリーズ化しており(読んだ後に気づいたけど)「01−02」「02−03」「03−04」の三巻まで発表されている。ここで「三巻まで発表されている」と表したのには訳がある。「04−05」の原稿がもしかしたら、存在しているかもしれないのである。では、なぜその存在が確認できないのか?それは、作者・野沢尚さんが自殺してしまったからだ。あれ程のサッカーに関して鋭い洞察力・文章力を持った人が亡くなってしまった事を知った時は相当のショックを受けた。と同時に『龍時』の時が止まってしまった事にも悲しみを感じた。しかし『龍時』はサッカーから遠ざかりつつあった私を、またあの忘れられない感覚、サッカーの世界へと引き戻してくれた。そんな風に感じてしまうのだ。そんな感覚は『ホイッスル』を読んだ時以来ではないだろうか?野沢尚さん、こんな場所で何ですが、あなたの本に出会えて良かったです。今は安らかに眠って下さい。心より感謝します。そして楽しみながら読ませてもらっています。